おくちでわかる、介護の兆し ― 歯科検診で「オーラルフレイル」を早期発見
ふくらはぎは第二の心臓
食べることは生きること
年齢を重ねると、外出の機会が減って歩く機会も減ったために「第二の心臓」の活躍の機会が減ってしまったり、人と一緒に話をしながら食事をする機会も減ったことにより、食べることが以前よりも楽しくなくなってしまった、という方もいらっしゃるかもしれません。機会が減ると、口や体の機能は知らず知らずのうちに衰えやすくなります。
特に高齢の方にとっては、歩くことと食べることは健康を維持するためにはとても重要な要素であり、離れて暮らしていると小さな変化に気づきにくいこととも相まって、不安を感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?
今回は、そんな方のために「介護」の兆しに早めに気づき、手を打つためのひとつの方法についてご紹介させていただきます。
目 次
1)介護は予防できるのでしょうか?
2)「フレイル」の兆候をどうやってつかむ?
3)離れて暮らすからこそ第三者の力を借りる
1)介護は予防できるのでしょうか?
介護が必要になるきっかけは一様ではありません。だからこそ、予防できるならば予防したいと思いませんか?
厚生労働省の2025(令和7)年 国民生活基礎調査によると、介護が必要となった主な原因の上位は、総数で認知症16.7%/高齢による衰弱15.6%/骨折・転倒14.6%。要支援の段階に限ると、高齢による衰弱17.7%/関節疾患14.8%/骨折・転倒14.7%が上位を占めています。
(出典:厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」 Ⅳ 介護の状況 表16「現在の要介護度別にみた介護が必要となった主な原因(上位3位)」)
介護が必要となる原因のなかには、脳血管疾患(脳卒中)や心疾患(心臓病)、糖尿病のように、生活習慣と関わりのある疾患もあります。これらの生活習慣病を予防し、早めに見つけるという意味で、日頃の健康管理は大切です。
(参考:厚生労働省「生活習慣病予防」)
「フレイル」という言葉をお聞きになったことがありますでしょうか?
ひとことで言ってしまえば、健康と介護状態の《あいだ》ということになります。
(出典:公益社団法人東京都医師会資料より引用)
フレイルは、健康な状態と要介護状態の中間の段階であり、要介護状態に至る前の段階として位置づけられています。裏を返せば、変化に気づいて早めに支援や対策につなげることのできる段階でもあります。
そのため、「フレイル」の兆候を早めにつかむことがとても大切なのです。
2)フレイルの兆候をどうやってつかむ?
普段から親と話をしていたり、会ったりしていたら何か変化があった時には気づくことができるかもしれません。
もし気が付いたとしても、それを言いにくくなってしまったり、言ったとしても受け入れてくれなかったりということもあるかもしれません。
そうなると、生活に支障が出るまで何も手を打つことができなくなってしまうこともあるかもしれません。
ちなみに先ほどの東京都医師会ではこんなチェックリストを配布しています。
(出典:公益社団法人東京都医師会資料より引用)
自分でチェックしてもらう、というのも一つの方法としてとても大切な方法でもありますが、《強制力》という意味では少し弱くなってしまうことは否めません。
3)離れて暮らすからこそ第三者の力を借りる
そんな時には、第三者の方の力、特に「センセイ」の力を借りてみるというのをおススメしています。
老いも若きも定期的に行くことが推奨される「歯科検診」です。

「オーラルフレイル」とは、2024年に日本老年医学会・日本老年歯科医学会・日本サルコペニア・フレイル学会が合同で発表したステートメントで、「『健口(けんこう)』と口の機能低下の間にある、可逆性のある状態」と定義されています。早すぎず遅すぎず、早めに気づけば戻せる段階だということです。
そして、この口の機能の衰えは身体の機能の衰えと連動していることが、研究でも明らかになってきました。OF-5を用いて東京大学の飯島勝矢先生らが柏市の高齢者を追跡した研究(Tanaka T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2023;23:651-659)では、5項目中2項目以上に該当するオーラルフレイル群は、身体的フレイルの有病率・新規発症率がいずれも有意に高いことが示されました(新たに身体的フレイルとなるリスクは1.69倍/95%信頼区間 1.32〜2.16)。また、年齢や既往歴などを調整した解析でも、新たに要介護1以上の認定を受けるリスクは1.40倍(95%信頼区間 1.14〜1.72)、死亡リスクは1.44倍(95%信頼区間 1.11〜1.87)でした。
ただし、これは観察研究で確認された「関連」であり、オーラルフレイルだけが要介護や死亡を直接引き起こすことを意味するものではありません。気になる項目があっても過度に不安になる必要はなく、早めに気づいて手を打てる目安として受け取っていただければと思います。
おうちでできる「OF-5」セルフチェック
オーラルフレイルは、まずご自身やご家族でセルフチェックできます。3学会合同ステートメントで示された「OF-5(オーラルフレイル5項目チェック)」は、次の5つです。
- ①残存歯数の減少(自分の歯が少なくなってきた)
- ②咀嚼(噛む)困難感(硬いものが噛みにくい)
- ③嚥下(飲み込み)困難感(お茶や汁物でむせる)
- ④口腔乾燥感(口の中が乾く)
- ⑤滑舌の低下(舌が回りにくい・聞き返されることが増えた)
このうち2項目以上に当てはまると、オーラルフレイルの可能性があります。離れて暮らす親御さんと電話で話すときに、「最近むせたりしない?」とそっと聞いてみるだけでも、最初の気づきになります。
そのうえで、おくちの中の衰えを定期的な健診でチェックしておくことで、早めに手を打つことができるとともに、《センセイ》の言葉(権威効果)ということで真剣に聴いてくれる方も多くなる傾向も期待できます。
(出典:神奈川県歯科医師会)
<食・歯科口腔から見たフレイル化>
(出典:日本歯科医師会「オーラルフレイルについて」)
(オーラルフレイルの定義・OF-5:オーラルフレイルに関する3学会合同ステートメント(2024年)/リスクの数値:Tanaka T, et al. Oral frailty five-item checklist to predict adverse health outcomes in community-dwelling older adults: A Kashiwa cohort study. Geriatr Gerontol Int. 2023;23:651-659. doi:10.1111/ggi.14634(PubMed/全文))
かみ合わせが悪くなったり、飲み込みがうまくできなくなってくると徐々に食べられるものが限られてしまうことで、低栄養などもあいまって身体の「フレイル」も進んでいってしまう恐れが高まってくるとも言われています。
なお、75歳以上の方には、後期高齢者医療制度のもとで後期高齢者医療広域連合による「歯科健康診査」が行われています。厚生労働省の令和8年度後期高齢者医療制度事業の実施についてによれば、歯・歯肉の状態や口腔清掃状態などをチェックし、あわせて口腔機能の評価(咀嚼能力評価・舌機能評価または嚥下機能評価)を行うものとされています。ただし、対象者や健診項目は各広域連合が地域の実情や高齢者の特性を踏まえて設定するため、お住まいの地域によって内容が異なります。こうした公的な健診を受診のきっかけにするのもおすすめです(詳しくはお住まいの広域連合や自治体の案内をご確認ください)。日本歯科医師会が進める「8020運動」(80歳で20本以上の歯を保とう、という運動)の達成率も、令和4年の調査で約51.6%まで伸びてきています。お口の健康を保つことは、決して特別なことではなくなってきているのです。
(8020達成率:日本歯科医師会プレスリリース(令和4年度歯科疾患実態調査))
だからこそ、歯科健診を、お口の状態や口腔機能の小さな変化=オーラルフレイルの兆候に気づくきっかけにできるよう、親と話しておく、ということは自らの身を守るという意味でもとても大切であるとともに、離れて暮らしていても今できる事のひとつなのではないでしょうか。
新しいカタチの介護研修
~仕事と介護の両立支援研修 けあとの遭遇®ワークショップ~





